《ろう者の伝統的手話表現における"顔の文法"集》シリーズ2の1 (今回も、内容のご吟味・ご指南よろしくお願いします) まずは大きな動きから シリーズ2からは順を追って、ろう者の手話表現における顔の部品(顎・目・眉・頬・口)の働きについて述べていくことにしている。しかしその前に、それらの細やかな動きと共に働く時があり、動きとしては大きくてよく目立つ「頭」の動きについて触れたい。 【頭の動き】 《うなずき》と《首振り》 「首を縦に振る。首を横に振る」というが、実際に動いてみえるのは「頭」である。それゆえ、【頭の動き】として分類した。 1.〈肯定〉と〈否定〉の表現として 1)基本はろう者も同じ 耳の聞こえる人たち(「ろう者」に対し、「聴者」と呼ぶ)は会話の中で相手の質問に対し、「はい」「ええ」「うん」などの発声と共にうなずいたり、「いいえ」と共に首を横に振ったりして、回答を述べる。 ろう者も、同様の意味を表す形の手指の動きと共に、相手の質問に対し〈肯定〉であれば《うなずき》、〈否定〉であれば横に《首振り》をし、回答の手話表現に入る。 また、聴者が沈黙して、うなずいたり首を振ったりするのと同様に、手指の表現が伴わないこともある。 2)強弱などの仕方は 肯定や否定の強弱、確かさ不確かさ、自信度なども聴者と同様〈動かす幅と速さ〉で表現される。 動かす幅:大きいほど意味が強められ、 小さいほど意味が弱められる。 動かす速さ:幅と関係するが、幅狭く小刻みに速く動かすよりは、ゆっくりと幅広く動かすほうが強さと余裕を表す。 上記の動作と共にろう者の表現には、〈目の開き具合〉〈口の形(口型)〉も伴う場合がある。それについては、それぞれの項で説明する。 2.会話を円滑にする〈相づち〉として 聴者同士の会話の中で、聞き手になった側が相手の話し中にうなずいたり首を振ったりして、話の内容に対する意思表示をしながら聞くという行為は、会話を円滑に進めたり楽しく盛り上げたりする効果がある。 ろう者同士の手話による会話では、それが実に感心するほどのタイミングでなされているのをよく見受ける。それも単調なものでなく、強弱をうまく交え、リズミカルである。 3.列挙の〈と〉としての《うなずき》 ろう者の手話では、「~と~と」と順次、人や事物を列挙していく時に、各名詞表現の後に《うなずき》を入れる。 名詞が2つ続いていて、間に《うなずき》が入らない時は、前の名詞が後ろの名詞を修飾する関係になる。 例: 私+《うなずき》+娘+《うなずき》⇒私と娘と 私+娘+《うなずき》⇒私の娘 4.文の区切りの《うなずき》 ろう者同士の手話での会話で、話し手がリズムよくうなずいたり首を振ったりしているのを、見かけたことがあるだろう。その《うなずき》には上記3で説明したような文の途中で行うものもあるが、《文の終わりを表すうなずき》もある。疑問や命令や同意の要求などのない文(=平叙文)の場合、《うなずき》が文末の〈句点〉の役割をするのである。 これもよく見かけることだが、ろう者の手話には文末に《指差し》を入れる場合がある。この指差しは、文の主語を再度明らかにする動作であったり、話題になっている主体を示したりしている。 そのような《指差し》を文末に入れる時には、その直前の単語のあとに《うなずき》を入れるのである。
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